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岐阜地方裁判所 昭和57年(ヌ)31号 決定 1982年5月17日

債権者 日立クレジツト株式会社

債務者 川崎冨夫

主文

本件不動産強制競売申立を却下する。

申立費用は債権者の負担とする。

理由

一  債権者は、「債務者所有の別紙目録記載の不動産に対する強制競売手続を開始する」旨の裁判を求め、その理由として「債権者は債務者に対し別紙請求債権目録記載の執行力のある公正証書(以下、本件公正証書という)の正本に表示された同目録記載の債権を有しているが、債務者がその支払をしないので、本件申立に及んだ」と主張した。

二  しかしながら、一件記録によると、

本件申立書に「債務名義の表示」として記載された債務名義が、本件公正証書の第弐条(第四条、第五条)であることは、その末尾に附記された執行文の記載に照しても明らかであるところ、本件公正証書第弐条には「甲(借主)は、乙(債権者)が金融機関に対して前条の連帯保証債務を履行したときは直ちに乙が金融機関に弁済した金額およびこれに対する弁済期日の翌日から完済まで年拾四・六パーセントの割合による遅延損害金を乙に支払う」との記載がなされているが、本件公正証書作成時におけるその全記載を精査しても、同条項の「乙が金融機関に弁済した金額」即ち債権者のなす代位弁済金額を特定することはできないから、本件公正証書第弐条(第四条、第五条)には民事執行法二二条五号にいう一定の金額の記載がなく、その執行力もないものといわざるをえない(なお、上記執行文においては、債権者がなした代位弁済の金額が金二一六万七七九二円であることは明示されているにしても、公正証書が金銭の一定の額の支払を目的とする請求について作成されることは、それが債務名義たりうる要件の一にほかならないから、既にこの要件を欠く公正証書が、後日執行文付与の段階でその記載内容の如何により執行力を有するに至るものでないことは明らかである)。

よつて、本件申立書において債務名義として表示された本件公正証書第弐条(第四条、第五条)に執行力のない以上、これを債務名義とする本件申立は不適法として却下し、申立費用は債権者に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 松永眞明)

(別紙) 物件目録<省略>

請求債権目録

債権者と債務者川崎冨夫間の名古屋法務局所属公証人菅原次磨作成昭和五四年第四、二三五号公正証書に表示された下記債権

(1)  元金 金二一六万七七九二円

ただし、賦払金三八二万二七七一円の残金

(2)  上記(1) に対する昭和五七年二月二八日から完済まで年一四・六%の割合による遅延損害金

なお、債務者は昭和五六年一一月七日以降第一生命保険相互会社に支払うべき金員の支払を怠り期限の利益を喪失したので債権者は昭和五七年二月二七日第一生命保険相互会社に代位弁済をなし、よつて求償権を取得したものである。

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